値下げマンは、全館あらゆる売り場に神出鬼没に登場する設定にした。
たまに、予告出現するが、客の状況によってパターンを変えていった。とにかく業界にかつてないものを作ってゆこうと思っていた。客は、店内を練り歩いて売り場の商品をバンバン値下げしてゆく値下げマンに遅れじと、必死について来てくれた。うれしかった。
時には店内はパニック状態になる程のボルテージだった。よくオイルショックの時(客がトイレットペーパーを奪い合う)のVTRがテレビで流れるが、あんなもんじゃなかった。
オレに言わせてもらえば、あれは暇な店だ。こっちはトイレットペーパーを無料であげていた。っていうか、バンバン客に向かって投げていた(笑)。そういう世界だ!
値下げマンのコスチュームはヒーローっぽい感じで、ヘルメットにゴーグル、赤いマントといったもの。一方、そのショーの進行役に扮するオレは、怪しげな鼻メガネに、ステンカラーコート、ズボンははかずにルーズソックスといった感じだった。かつて悪役レスラーを率いて登場する悪徳マネージャーといったところであろうか。見方によっては大竹まことにも似ていた(笑)。
通常、店舗という健全な環境にはありえない奇怪な様相だった。ありえない事をするのだから、ありえない格好をするのが良いと思った。
正直、この姿を娘には見せたくないが、当時、独身だったオレは失うものなく真剣にバカをやっていた。
値下げマンには、高度な店内アナウンスの技術、客との掛け合いアドリブトーク、緩急や間が要せられる。オレはこの時の為に、ある尊敬する先輩社員の全てを盗むように学んできた。その人は今でも現役で川崎の商店街で元気に商売人をやっている。
地域の消費者からの口コミから派生し、各メディアから取材や番組出演の依頼も殺到した。時には経済評論家と名乗る人たちから、「値下げマン」に対するかなり多くのコメントをもらった。もちろん賛否はあったが、話題にしてもらってありがたかった。ただ一つ言わせてもらえば、店の現場で値札付けや品出しをしたことないオッサンに、分かったような口を利いてほしくない。ちゃんと原価計算くらいしています。「値下げマン値引き」なんていう特別稟議もあった。
値下げマンをやってゆくうちに、アパレルや流通業には興味が無くなってきた。いくらポー○・スミスのコレクションスーツを格安で仕入れて、一日で50着売っても、値下げマンのドキドキと、脈打つ快感には変えられなかった。
そして、人前でトークをすることの楽しさを知った。値下げマンは、MCへの入口だった。
時間を限定したライブで表現する自分こそが、タイムサービスそのものだと知った。
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